植毛手術と聞けば自分の毛を利用する「自毛植毛」を連想する方が多いと思います。植毛手術には自毛植毛の他にも人工の毛を移植する「人工毛植毛手術」という手術があります。
髪の毛を増やしたい、植毛手術をしようかなと考えている方の中には「細くなってしまった自分の毛よりも、人工の毛を植えた方がいいんじゃないの?」という方もいるのではないでしょうか。
人工毛植毛はどのような手術をするのか?自毛植毛とどう違うのか。そして人工植毛にはどのようなメリットやデメリットがあるのか。手術を受ける前に知っておきたい「人工毛植毛」について解説します。
人工毛植毛手術ってどんなもの?そもそも人工毛とは?
なんとなく名前から「人工毛植毛」のイメージはつかめるかと思いますが、それでも具体的なことを知りたい…という気持ちはありますよね。
そもそも人工毛はどのような素材で出来ているの?人工毛植毛手術ってどうやって行うの?といった、「人工毛植毛の基礎知識」という部分から解説していきたいと思います。
人工毛植毛手術とは、人工の髪の毛を頭皮に移植する手術のこと
人工毛植毛手術とは、人工で作られた髪の毛を生え際や頭頂部といった髪の毛が薄い部分に移植することで髪の毛のボリュームを増やす・薄毛を目立たなくする手術のことです。
使われる人工毛は医療用のものであり、ナイロンやモダクリル・ポリアミド単繊維などの合成化学繊維で作られたものとなります。
ナイロンといっても安価なかつらやウィッグのように明らかに作り物の毛とわかるようなものではなく、きちんと本当の毛髪に馴染むようなものとなっています。素材によっては人工血管規格よりも安全性が証明出来ているものもあります。
自然な仕上がりで、植毛した毛と自毛の区別がつかない仕上がりになります。生え際から頭頂部にかけてつるつるだった部分がしっかりとカバーされて、ハゲていたとは思えないほどです。
どのような方法で人工毛植毛手術を行うの?
人工毛植毛手術の方法についてもご紹介しておきましょう。
人工毛植毛の対となる「自毛植毛」では、以下のように様々な手術方法が用いられます。
方法名 | 特徴 |
---|---|
ニードル法 | 特殊な植毛針を使用し、1本ずつ頭皮に植え込んでいく方法 |
FUT法 (ストリップ法) |
頭皮にメスでスリット(切れ目)を入れ、そこに移植する方法 |
FUE法 (ダイレクト法) |
小さなパンチで頭皮に穴を開け、そこに移植する方法 |
ですが、人工毛植毛手術では一番上の「ニードル法」を用いられることが多いようです。
特殊な植毛針を使用し、1本1本手で植えて行く作業です。他の方法と違い非常に手間がかかる方法ではありますが、その分仕上がりが自然になります。
ただし毛流れなどをうまくしないと不自然な仕上がりになってしまいますので、医師の経験とセンスがものを言うと言えるでしょう。
これは自毛植毛でも同じですが、信頼出来るクリニックを選ぶことが大切です。
画像を見ても人工の毛とは思えないクオリティで驚きだぞ!しかも1本1本丁寧に植えてくれるなんて…技術のたまものといった感じだな!
人工毛植毛のメリット・デメリットをご紹介!
画像を見た感じ自然な仕上がりですし、人工毛植毛は非常に魅力的…と感じた方も多いと思います。
ですが、人工毛植毛は残念ながらメリットだけではなく、デメリットも抱えています。このトピックではそのどちらもしっかりと紹介・解説しますので、ご自身にとってメリットとなるかどうかを考えてみてください。
自分の理想のヘアスタイルを作ることが出来る!
人工の毛を使用しますので、長さや色といった部分において「自分の理想」を追求することが可能です。
「なかなか髪の毛が生えなくてできなかったけど、この髪型にしてみたい!」なんてことも出来ますよ。
もちろん長めのスタイルだけでなく、スポーツ刈りのような短い髪の毛のスタイルも簡単に実現出来ます。
自毛植毛はドナーを採取するため、一度に植毛出来る本数がドナーに左右されてしまいますが、人工毛植毛であれば好きな本数を植毛することが出来ますので、ボリュームたっぷりの髪の毛にする、なんてこともできちゃいます。
AGAが進行してドナーが採取できない人でも受けられる
AGAが進行すると、生え際からだんだんと薄くなり薄毛部分は後頭部まで侵食していきます。
人工毛植毛であればドナーが不要ですので、AGAがかなり進行した人やドナーが採取しにくい人であっても植毛手術を受けることが可能です!
その日のうちに一気にボリュームアップが可能!もちろん段階的でもOK
自毛植毛は自分の毛を移植しますので、生えそろうまでにどうしても時間がかかります。
こちらを見ていただければわかりますが、私達の毛には成長し抜け落ちるという「ヘアサイクル」に沿っており、植毛した自分の毛もこのサイクルで伸びていきます。そのため生えそろうには数ヶ月~半年程度の期間を必要とするんです。
しかし人工毛植毛であれば希望の長さを植毛しますので、生えそろうまで待つ必要はなく、一気にボリュームアップが可能です。
もちろん「いきなり毛が増えたら植毛したとバレてしまうので自然にしたい」という方も多いと思います。そんな方は複数回にわけて手術をすることで自然に髪の毛を増やすことも出来るようになっていますよ。
頭皮に異物を埋め込むことになるので、拒絶反応が出ることも
ここからは人工毛植毛におけるデメリットを紹介・解説していきます。
人工毛植毛における最大のデメリットと言えるのが「拒絶反応」でしょう。そもそも人間は体内に異物を入れることに耐性があるわけではありません。
人工毛植毛はナイロンやポリエステルといった化学繊維を頭の皮膚の中に埋め込むといった手術法になりますので、入ってきた異物をなんとかしようと体が拒絶反応を起こすというわけです。
具体的には植毛した部分が炎症や感染症などの皮膚トラブルを起こします。薬などでよくなる場合もありますが、最悪せっかく植毛した人工毛を抜かないといけないケースもあります。
もちろん自毛植毛は自分の細胞を移植しているのでこういった拒否反応が起こるケースは少ないです。
人工の毛なので、一度抜けたら生えてこない!メンテナンスが必要
私達の体から生えている毛は、一度抜けたとしても毛根が働いている限りまた生えてきます。…そんなの常識だろ!という声が聞こえてきそうですね。
確かに常識なのですが、それは人工毛には通じません。人工毛は一度抜けてしまったら、当たり前ですが生えてくることはありません。
植毛した人工毛も一生残る…というケースは少なく、たいてい2年~5年で抜けてしまうことが多く、人によってはもっと早いケースもあります。
とはいえ、こちらの場合はそうならないように美容室できちんとメンテナンスをすればさほどデメリットと言える部分ではないでしょう。
AGAの治療として向いていないと学会が発表している
「日本皮膚科学会」という組織では、男性AGAの治療の指針として「男性型脱毛症診療ガイドライン」を発表しています。AGAの治療には様々な方法がありますが、それを「治療に適しているかどうか」でAからDまでランクをつけたものです。
その中で「人工毛植毛」は一番下の「D」ランクに位置づけられているのです。
ですが厚生労働省は現時点で人工毛の使用を禁止はしておりません。
理由はこちらの引用の通りで、過去に植毛した毛がすぐ抜けてしまう、植毛したところに感染症が発生したといったトラブルの報告が多かった点、海外では人工毛を有害としている点が挙げられます。
ただし日本においてその治療法は「NG」ではなく、人工毛植毛手術を受けることは可能です。ただ、人工毛植毛を行った際のデメリットよりもメリットが上回る根拠が弱いことから、基本的にこの治療法は取らないほうがいい、とガイドラインでは示しています。
人工毛植毛の後の自毛植毛手術は効果が低くなる
植毛手術を行った方の中には、人工毛植毛を行った後に自毛植毛に切り替えるケースもあります。
例えば人工毛植毛をして感染症など皮膚トラブルを起こしてしまったケースでは、人工毛をすべて抜き、抗生物質を飲み化膿が収まった後に改めて植毛手術を行うことになります。
他にも人工毛が抜けた後そこを自毛植毛にしたい、一部しか残っていないというケースなど様々です。
どのようなケースにしろ、一度人工毛を抜いて改めてそこに自毛植毛を行うことになりますので、健康な頭皮に…というよりは傷跡に植毛を行うのと同じ扱いになります。
そのため皮膚がかためになっており、余計に出血したり手術に時間がかかってしまいます。定着率に大きな影響があるとは言及されていませんが、健康な頭皮に比べると下がるおそれもあるでしょう。
特に日本皮膚科学会からオススメされてない点は厳しいな…。
人工毛手術をしても自毛植毛手術を受けることが出来る点は安心だが、そこにもリスクがあるのだな。
自毛植毛と人工毛植毛の違い!費用や安全面を徹底比較
人工毛植毛のメリット及びデメリットをご紹介しましたところで、現在一般的に行われている自毛植毛手術との違いや、費用など様々なポイントからの比較を行います。
特に費用面はどれだけお金がかかるかは重要なポイントですし、医療機関で行う外科手術なのですから、安全面も気になるところですよね。
植毛手術を受けてみたい方、自分はどっちの植毛手術の方が合っているんだろう?と悩んでいる方必見です!
まずは自毛植毛の手術方法をチェック!手軽なのは人工毛植毛
自毛植毛は、自身の髪の毛(毛穴周りの細胞や組織)を薄毛部分に移植する手術方法ですので、必ず自身の後頭部や側頭部から「ドナー」を採取することになります。
そのためメスを使用する手術法の場合、ドナー採取部分は縫合しなければなりません(パンチを使用する場合は縫合はしません)。
人工毛植毛はドナー採取の必要がなくすぐに植毛手術を行うことが出来ますから、手軽さで言えば人工毛植毛の方が分があると言えるでしょう。
安全性は自毛植毛の方がずっと高い!
次は「安全性」について比較してみましょう。先程のトピックでは、人工毛植毛は「日本皮膚科学会」のガイドラインでは「D」という最低評価となっていました。
このガイドラインを表にまとめると以下のようになります。
評価 | 治療法 | 推奨文 |
---|---|---|
A | ・ミノキシジル外用薬 ・フィナステリド内服薬 (男性AGAに対して) |
行うよう強く勧められる (治療の第一選択薬として用いるべき) |
B | 自毛植毛 | 行うよう勧められる |
C1 | ・塩化カルプロニウム外用薬 ・t-フラパノン ・アデノシン ・サイトプリン・ペンタデカン ・ケトコナゾール |
行うことを考慮してもよいが、 十分な根拠がない (用いてもよい) |
C2 | セファランチン | 根拠がないので勧められない (用いない方がよい) |
D | ・人工毛植毛 ・フィナステリド内服薬 (女性AGAに対して) |
行わないよう勧められる |
※ミノキシジル外用薬を解説した記事や、フィナステリド内服薬について解説した記事も是非ご覧ください。
人工毛植毛が「D」なのに対し、自毛植毛は「B」となっています。ガイドラインにも以下のような記述があります。
自分の細胞なので拒絶反応を起こすこともなく、安全性という面でみればガイドラインと照らし合わせても自毛植毛の方が安全、と言えるでしょう。
どれくらいで植毛手術を受けられる?費用面で比較
続いては費用面での比較です。日本ではあまり人工毛植毛手術を行っているクリニックは多くないため、人工毛植毛と自毛植毛の両方を行っている「ニドークリニック」の費用で比較してみたいと思います。
植毛法 | 約700本 | 約1000本 | 約2000本 | 約3000本 | 約4000本 |
---|---|---|---|---|---|
人工毛 | 182,000円 | 260,000円 | 520,000円 | 780,000円 | 1,040,000円 |
自毛 | 500,000円 | 626,000円 | 956,000円 | 1,250,000円 | 1,540,500円 |
これは人工毛植毛はドナーを採取する必要がないのに対し、自毛植毛はドナーを採取する必要があること、さらにそれをグラフト(株)にわけなければいけないといった作業工程の差にあると考えられます。
ニドークリニックでは人工毛の単価は1本220円~260円です。自毛植毛の際はグラフト(株)の単価で計算することとなっていますが、ニドークリニックでは明確な数字は出ていないものの、大手クリニックである「親和クリニック」では1株800円~1,200円の設定です。
手術法やクリニックによって価格は変わるものの、グラフト単価が「5,000円」なんてところもありますので、費用面では人工毛植毛の方がずっとローコスト、と言えそうです。ただしメンテナンスなども考えると…一概に安いとも言えないかもしれません。
人工毛植毛と自毛植毛、どちらの「定着率」が上?
植毛手術は「定着率」が重要です。定着とはその名の通り、植毛した毛がきちんと頭皮に残る(生える)確率のことです。
どちらの方法も最近では技術が進み、定着率は90%を超えると言われています(もちろん個人差はあります)ので、手術しても全く結果が出ない…というケースは少なくなってきているようです。
ただ、人工毛植毛はいくら定着しても最終的に2~5年ほどで抜けてしまうのに対し、自毛植毛は一度定着すればきちんと髪の毛として生え変わってきますので、10年先の定着率…と考えると自毛植毛の方が残っている、と考えてよさそうです。
ドナーを採取する必要もないから、ツルツルな人でも受けられるところもいいところだな。
しかし定着や安全性の面で見ると、やはり自毛植毛の方がいいと言えそうだな。
可能なら自毛植毛の方が安全。それでも受けるなら覚悟を!
手軽に自分の思い通りの髪型を作ることが出来、ドナーの採取も必要なく、さらに植毛すればした文だけきっちりと効果が現れる(見える)のが「人工毛植毛」の大きな魅力と言えます。
その反面、安全性については自毛植毛に比べると低く、メンテナンスも必要になるなどリスクが高いといっても過言ではありません。
多くのクリニックでは「植毛するなら自毛植毛」というスタンスだと思いますので、植毛手術をしたい!と思っているのであれば、可能なら自毛植毛手術にしておいたほうがいいでしょう。
それでも人工毛植毛を…というのであれば、リスクを負うかもしれないという覚悟の上で受けることを考えてください。
ただ、どうしても人工毛の方がいい、またはそちらしか出来ない場合はリスクを知った上で慎重な決断をするんだぞ!